1. 背景と目的
近年、猛暑日が常態化し職場での熱中症死傷者は2024年に1,195人（うち死亡30人）と過去最多を更新しました。
死傷者全体の約4％が熱中症による死亡で占められ、早期発見・初期対応の遅れが主因と分析されています。
こうした状況を受け、労働安全衛生規則（安衛則）を改正する厚生労働省令第57号が2025年4月15日に公布され、同年6月1日（令和7年）に全面施行されます。
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2. 改正概要 ― 三つの義務化ポイント
新設された安衛則612条の2は、熱中症の重篤化を防止するため、事業者に次の三点を義務付けます。
| No. | 義務 | 実務イメージ |
|---|---|---|
| 1 | 報告体制の整備 | 自覚症状を訴える／仲間の異変を見つけた作業者が即時連絡できる一次窓口（例：現場責任者・安全衛生担当）を明示し、全員に周知 |
| 2 | 手順書（マニュアル）の作成・周知 | 「離脱 → 冷却 → 医師診察／搬送」の流れと緊急連絡網・医療機関情報を文書化し、作業場ごとに掲示・QR 配信 |
| 3 | 教育・訓練の実施 | 年度初めの集合教育＋現場 KY・ロールプレイ訓練 でマニュアルを反復 |
3. 対象となる作業の判断基準
「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、
WBGT28℃以上 または 気温31℃以上の場所で
連続１時間以上または一日計４時間超
行われる作業が該当します。臨時・出張作業でも条件を満たせば対象です。
- 建設現場、屋外物流、道路清掃
- 鍛造・鋳造など高温作業
- ビニールハウス内農作業 など…
4. 義務① 報告体制をどう作るか
- 一次窓口：現場責任者・安全衛生スタッフを明記
- 報告手段：音声無線・スマホアプリ・紙掲示など複線化
- 共有ルール：症状／発見時の行動フローをポスター・朝礼で反復周知
ポイントは「1分以内に誰に報告するかを全員が言える状態」を作ることです。
5. 義務② 手順書（マニュアル）の要件
| ステップ | 具体措置 | 実務ヒント |
|---|---|---|
| 離脱 | 作業即時中断・日陰退避 | 作業場レイアウト図に避難ラインを描く |
| 冷却 | 飲水、アイスベスト、ミスト扇 | 体幹（首・脇・鼠径）を優先冷却 |
| 医師受診 | 意識・体温チェック→119番／産業医 | 救急隊到着までの応急処置も図示 |
マニュアルは作業場ごとに作成し、QR コードや動画で“見える化すると周知効果が高まります。
6. 義務③ 教育・訓練
- 最初：集合安全衛生教育＋動画視聴
- 夏前：ロールプレイ訓練（倒れる役・救護役）で所要時間を計測
- 随時：WBGT・気温が基準超過したら現場 KY で再確認
第14次労働災害防止計画では「暑さ指数を把握・活用する事業場の割合を2027年までに増加させる」目標が掲げられています。
7. 罰則・行政リスク
612条の2は労働安全衛生法22条に基づく措置義務。違反すると
- 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金（安衛法119条1号）
- 監督署による是正勧告 → 使用停止命令の可能性
があります。
8. 助成金・支援策
| 支援策 | 概要 | 担当窓口 |
|---|---|---|
| 厚労省パンフ・リーフレット無償配布 | 改正概要・マニュアル例を掲載 | 全国労働局 |
| 自治体・中小企業助成 | WBGT計・空調服・ミスト扇の導入補助 | 県・市区町村の産業労働課 |
9. 施行までのロードマップ
| 手順 | やること |
|---|---|
| Step 1 | 報告体制・手順書ドラフト完成、掲示物準備 |
| Step 2 | 全従業員教育＋ロールプレイ訓練 |
| Step 3 | 運用開始 |
| Step 4 | 高温期の実運用 → 9月に振り返り＆改善 |
10. フリーランス・一人親方が押さえるべきセルフケアと権利
改正安衛則は事業者側の義務強化が主眼ですが、実際に作業に就く労働者自身の行動が“最終バリア”になります。
厚労省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」や通達資料を踏まえ、現場で今日から実践できるポイントをまとめました。
| カテゴリ | やること | 目安・補足 |
|---|---|---|
| セルフチェック | ①尿の色が薄いか確認 ②爪押しテスト（2秒以内に色が戻るか） | 少しでも異常を感じたら直ちに上司へ報告 |
| 水分・塩分補給 | 30分ごとに100〜200 ml、0.1〜0.2％食塩水 | コーヒー・アルコールは脱水を促進するので前日は控える |
| 装備・服装 | 通気性の良い長袖＋空調服・アイスベスト | 首・脇・鼠径部を冷やすと効率的 |
| 休憩と暑熱順化 | WBGT28〜30℃：60分に1回10分 WBGT31℃超：45分に1回15分 | 5月中旬から徐々に発汗に慣らす（暑熱順化） |
| 報告ルート | ①自身の症状 ②仲間の異変 | 「誰に・どう連絡するか」を朝礼で復唱 |
| 応急手当 | 日陰退避→衣服緩め→冷却材で体幹冷却→119番 | 体温40℃、意識障害は“迷わず救急車” |
| 権利の理解 | 熱中症の疑い時は作業離脱を優先し、罰則・不利益処分は違法 | 労基署・労働組合へ相談可能 |
コラム：家でもできる“前日準備”
- 睡眠 6時間以上：睡眠不足は発症リスク1.6倍
- 朝食で糖質＋たんぱく質を摂取し、発汗エネルギーを確保
- 体重が前日より2％以上減なら脱水のサイン、出勤前に水分補給
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11. 労働者への周知に使える無料ツール
| ツール | 概要 | 入手先 |
|---|---|---|
| 爪押しセルフチェックカード | 爪先を2秒押して色の戻りを確認 | 厚労省サイト（PDF） |
| 尿色チャート | 尿の色5段階で脱水度を自己判定 | 同上 |
| STOP！熱中症クールワーク動画 | 応急手当・水分補給の3分動画 | 厚労省キャンペーンページ |
12. 労働者向けメッセージ例（社内掲示・配布カード用）
「のどが渇く前に一口補給、‘ちょっと変だ’と思ったらすぐ報告！」
あなたの報告が、仲間と自分の命を守ります。
まとめ ―「組織の備え」と「個人のセルフケア」の両輪でゼロ災をめざす
- 改正安衛則612条の2により、令和7年6月1日からは
- 報告体制の明確化、2. 手順書の整備・掲示、3. 教育・訓練の実施
が全事業場で義務化。違反すれば是正勧告や罰則の対象になります。
- 報告体制の明確化、2. 手順書の整備・掲示、3. 教育・訓練の実施
- 対象となるのは WBGT28 ℃以上または気温31 ℃以上で1時間超／1日4時間超 の屋内外作業。建設、物流、農業、製造など幅広い現場が該当します。
- 事業者は 5月中 に体制・手順書を完成させ、 夏前 にはロールプレイ訓練で実効性を検証。空調服・WBGT計などの設備投資は助成制度も活用しましょう。
- 労働者は のどが渇く前の補給・仲間の声掛け・早期報告 を徹底し、セルフチェック（尿色・爪押しテスト）で異変を逃さないことが最終防衛線となります。
- 組織の備え（管理）と個人のセルフケア（現場）の両輪 が回って初めて、重篤化ゼロと生産性確保が両立します。今夏を「改正後初の試金石」ととらえ、PDCAを高速で回していきましょう。
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